大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成11年(受)461号 判決

上告人

土佐観光施設株式会社

右代表者代表取締役

池上雄次郎

上告人

高知ゴルフ倶楽部

右代表者理事長

濱田耕一

右両名訴訟代理人弁護士

小松英雄

右訴訟復代理人弁護士

森裕之

被上告人

川添賢治

右訴訟代理人弁護士

川添博

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人小松英雄の上告受理申立て理由二について

一  本件は、いわゆる株主会員組織のゴルフクラブの会員であった者が、右ゴルフクラブ及びゴルフ場経営会社に対し、右ゴルフクラブの個人正会員たる地位を有することの確認を請求している訴訟である。

原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  上告人土佐観光施設株式会社(以下「上告人会社」という。)は、ゴルフ場とこれに付帯する設備の建設、利用等を目的とする会社である。

2  上告人高知ゴルフ倶楽部(以下「上告人ゴルフクラブ」という。)は、昭和三七、八年当時、上告人会社所有のゴルフ場を賃借してこれを運営し、会員相互の親睦を図ること等を目的とする団体であり、議決機関たる会員の総会において多数決による意思決定が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その代表の方法、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しており、権利能力のない社団であった。

3昭和三七年一二月当時、上告人ゴルフクラブの規約(以下「本件規約」という。)には個人正会員は上告人会社の株式を二株以上保有すべき旨の定めがあったので、被上告人は、上告人会社の新株二株の引受けを申し込んで、その割当てを受け、払込期日までに発行価額全額(一〇万円)を払い込んで、右新株二株を取得するとともに、上告人ゴルフクラブに対し入会を申し込み、入会の承認を得て、同月一四日ころ、上告人ゴルフクラブの個人正会員たる地位(以下「本件会員権」という。)を取得した。

4  ところで、当時、上告人ゴルフクラブのゴルフコースは九ホールしかなく、また、クラブハウスなど付属施設も不備であったので、会員の中でホール増設やクラブハウス増改築等の要望が強くなった。そこで、上告人会社及び上告人ゴルフクラブは、このための費用を、上告人会社の新株を発行し、既存の株主に引き受けてもらう方法により調達することとし、上告人ゴルフクラブにおいて、昭和三八年三月二六日、総会を開催し、本件規約中の個人正会員の資格要件である上告人会社株式保有数の定め「二株以上」から「三株以上」に改正し、かつ、これを既存の会員にも適用し、この資格要件を満たさない会員はその地位を失う旨決議した(以上右決議を「本件改正決議」といい、右改正後の定めを「本件改正規定」という。)。

本件規約には、本件規約の改正は、理事の三分の二以上の賛成を得た理事会の発議により、総会の出席会員の過半数の賛成による承認によって行う旨の定めがあり、本件改正決議は、右の定めに基づいて行われた。

5  本件改正規定は、右総会の決議に基づき、昭和三八年六月一日に施行されたが、その時点においても、被上告人は、上告人会社株式を二株保有しているにとどまった。

6  上告人ゴルフクラブは、上告人会社に対し、昭和五二年一月一日をもって、それまで上告人ゴルフクラブが行っていたゴルフ場の運営業務を上告人会社に引き継いだ。これによって、以後は、上告人会社がゴルフ場施設を利用させる役務の提供義務を会員に対して負うことになった。しかし、右業務引継ぎ後も、上告人ゴルフクラブは、権利能力のない社団であることに変わりはない。

7  上告人らは、被上告人は本件改正規定の施行された昭和三八年六月一日限り会員権を喪失したとして、被上告人が本件会員権を有することを争っている。

二  原審は、被上告人と上告人ゴルフクラブとの基本的法律関係は、被上告人と上告人ゴルフクラブとの間で入会契約が締結された昭和三七年当時の本件規約に基づいて定められたものであり、このようにして定められた会員の契約上の基本的な権利を変更するには、会員の個別的な承諾を得ることが必要であるが、被上告人の承諾が得られた形跡がない以上、上告人ゴルフクラブは本件改正規定に基づき被上告人の本件会員権を喪失させることはできないと判断して、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消し、被上告人が本件会員権を有することを確認した、

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

前記事実関係によれば、上告人ゴルフクラブは権利能力のない社団であり、本件改正決議は、本件規約において定められていた改正手続に従い、総会での多数決により、構成員の資格要件の定めを改正したものである。そうすると、本件改正規定は、特段の事情がない限り、本件改正決議について承諾をしていなかった被上告人を含む上告人ゴルフクラブのすべての構成員に適用されるものと解すべきものであり、前記事実関係に照らせば右特段の事情を認めることはできない。

よって、本件改正規定が施行された昭和三八年六月一日の時点において、本件改正規定に定められた資格要件を満たしていなかった被上告人は、本件会員権を喪失したものである。

四  以上によれば、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の上告人らに対する請求をいずれも棄却した第一審判決の結論は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。

よって裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官福田博 裁判官河合伸一 裁判官北川弘治 裁判官亀山継夫 裁判官梶谷玄)

上告代理人小松英雄の上告受理申立て理由

一 〈省略〉

二 法令の解釈に関する重要な事項

「社団としての実体を有するゴルフ倶楽部において、ゴルフ倶楽部の一般的規約改正規定によって、倶楽部会員たる資格に必要とされる株式数を増加させる決議により、所持する株式の数が、規約改正後の株式数に満たない者に対し、その会員権を失わせることは有効か」

まず、この問題は、①社団がその社員総会の決議により、構成員に対して財産的出捐をもとめることが出来るかという点、②仮に①が出来るとして、それによって、社員たる地位を個別の同意無くして喪失させることが出来るかと言う点、に分かることが出来る。

以上、それぞれにつき、上告人の見解を主張する。

1 「社団がその社員総会の決議により、構成員に対して財産的出捐を求めることが出来るか」

社団は、社員総会において定款を改正しうるものであり、その改正はいわゆる社団法理にもとづき、私的自治の原則の元、団体の自主的決定に委ねられ、その内容は、社団の構成員たる社員の権利義務関係を変更し得る。

ゴルフ倶楽部の規約に関しても、当該倶楽部が、財政、組織の代表や役員の選出方法に照らして社団の実体を備えている場合は、その会員規約が倶楽部のいわゆる定款(社団の根本規則)に相当し、会員には団体法理が適用され、定款の改正は当然に会員を拘束することになる。

よって、原則として、本件改正決議も有効である。

成る程、社員の多数決によって、少数者の権利を不当に奪ったり、またいわれなき義務を課すことは、数の横暴として許されないであろう。

しかし、社団がその存続、維持、拡大のために構成員に対し、一律かつ平等に財産的出捐を求めることは、なんら信義則に反するものではない。

例えば、民法は、共有者に関する法文において、各共有者に持ち分に応じた管理費用の分担を求め、また、それに応じない者に対しては他の共有者の償金支払による持分喪失を定めている(二五三条)。

これは、直截には共有者に関する規定ではあるが、ひろく共同して財産を管理、運営し、その用益の便を得ている者の間の権利義務関係にも妥当する、衡平の原理によってみとめられる法理である。

本件においても、本件ゴルフ場施設は、会員の共有とまでは言えないものの、会員は会員総会を通じてその管理運営に関して、等しく意見表明し、代表を選出する権利を保障されており、また、ゴルフ場施設を利用していたのであるから、会員総会の決議に基づき各人に応分の費用負担を求めても、なんら違法ではない。 また、信義に照らしても、構成員に財産的出捐を求めても、違法ではない。

すなわち、ゴルフ場の経営を維持し、会員のプレー権の存続と維持のために、財産的な負担を強いたとしても、多くの会員のための全体的利益からみて至極当然の義務である。

なんとなれば、ゴルフ場は、共同財産たるゴルフ場を全会員に対して利用させる役務を長期間でかつ安定的に提供する義務を負っているからである。

本件の新株引受についても、実質的に社団の存続、維持、発展のための出資であり、いわば、特別会費の徴収と同じものであり、なんら、法的に問題のあるものではない。

原判決は、かかる社団法理を無視し、さらに、本件ゴルフ会員権をめぐる法律関係の集団性、団体制、牽連性を無視して古典的契約理論に拘泥している。

2 「社員たる資格を個別の同意無くして喪失させることは出来るか」

1に述べた通り、本件新株引受は、社団構成員の義務であるから、社員たる義務を履行しなかった者は、その社員資格を喪失するのは、社団を維持存続させる上で、社団の一体性・等質性の観点から見ても、至極当然である。

また、諸法においても、議決機関に民主的基盤が整っていることを前提として、多数決原理のもと、個々の構成員の権利関係をその同意無くして変更することを容認する場合がある(民法三七条六号・三八条一項、商法二四五条・三四八条・建物の区分所有権に関する法律六二条一項、破産三〇六条一項、会社更生法二〇五条など)。

また、除名や懲戒処分が認められることとの均衡からみても、当該規約変更の効力は、正当な手続を踏み、その中で、社員権を失うべき会員に発言の機会が保障されており、当該決議が多数社員の支持の元で有効に成立していること、規約の改正の必要性が認められること、会員の利益に資する改正であること、代償・代替措置が採られていること、などゴルフ場業界乃至各ゴルフ場の個別的事情を考慮して総合的に判断されるべきであるが、本件においてはいずれの点についても問題なく認め得る。

また、社会経済或いは当該ゴルフ場をめぐる状況の変化に応じた規約・細則の改正が不可避であると予想される範囲においては、会員は予め黙示的に承諾していると解され、改正時に改めて会員各人の意思を問いただすまでの必要もない(大阪高裁判決昭和六三年五月三一日有馬カンツリー倶楽部事件判時一二九六号六三頁)。

3 原判決は基本規約の拘束力、すなわち単なる既得権の保護のみを根拠に、会員資格に関わるとの一事をもって当該改訂が無効であると判示する。しかし、以上述べた社団法理に全く配慮すること無く、一連の預貯金方式や、株主会員制で倶楽部に社団性が全く認め得ない事例に関する判例理論を強引に援用しており、不当と言う他は無い。

三 〈省略〉

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